2019年03月18日

報道についてコメントする、ということ~特に山岳遭難の場合について

ピエール瀧さんの事件といい、先日、福岡地裁久留米支部で準強姦の被告人に言い渡された判決といい、司法関連の事件の報道が続きます。
ピエール瀧さんはまだ逮捕段階ですし、無罪判決の方はまだ全文が公開されていないので、法律家であれば、本来、何ともコメントできない。というのが正解でしょう。

報道というのは不思議なもので、報道された時点でまるでそれが真実であるかのように、いろいろな人がいろいろなことを言います。しかしプロであれば、報道がどれだけ恣意的であるか。報道によって知ることができる面は、事件全容のほんの、ほんの一部でしかなく、それだけで何ともコメントできないことは、よく知っているはずです。

司法以上に、私が気になるのは、山岳遭難事件が起きたときの、各方面からのコメントです。

まず、まったく、ヤマのことを知らない方が、あれこれ非難するのは、それはもっともだと思います。
ヤマは、趣味です。パチンコや競馬と同じような趣味です。我々ヤマヤさんが、どれだけ、ヤマはもっと高尚なものだ!と信じていても、そして趣味以上に、ヤマはヤマヤの人生そのものであるにせよ、

ほかの人から見りゃ、何がどう尊いのかさえさっぱり分からん、ただの趣味です。
てめえの趣味のために、おまわりさんとか、警察のヘリとか、公共の財産を使うなよ。という話になるのは、よくわかります。

ですが、ちょっとでもヤマのことをかじっている人が、遭難者のことをあれこれ言うことがあります。

たとえば、「悪天候が予想されていたのに突っ込んだ」「無理な登山だった」「無謀だ」というコメント。

そんなコメントしてる暇があったら、お前が登れよ。と思うんです。

ガイド業ではない我々、一般のクライマーは、毎日毎日せっせと仕事をこなし、なんとかして土日の休みを確保し、毎日睡眠不足の中で、やっと車をすっ飛ばして、登山口に行くんです。

やっと確保した休み。天気予報が悪くても、もしかしたら、予想より早く天候が回復するかもしれない。もしかしたら、それほど天気が崩れないかもしれない。そう、一縷の望みをかけてヤマに挑んだ結果が、たとえ事故につながったとしても、

それを、そんなに強く非難できるでしょうか。そもそも、非難するアナタは、絶対自分は事故らない、ミスらないと胸を張って言えるのか。

それほどまでヤマを愛し懸命にヤマを追いかけて散った同好の士を、暖かいところでぬくぬくしながら非難するなんて、ヤマやの風上にも置けないと思うのです。(こういうコメントをするのはガイドが多いように思えてなりません。まあ、素人が、ガイドもつけずに登るなといいたいのかもしれませんが、ガイドのような職業登山家には、我々、素人登山家が山にかける一途な思いは判らないのでしょうか)。

たとえば、あの那須連峰での、高校生の悲惨な雪崩事故。

あれだって、じゃあ高校の先生たちが、ビーコン持ってたら助かったと思いますか。ろくろくビーコン訓練もしたことのない高校の先生たちにビーコンがあったところで、雪崩に巻き込まれた生徒たちが、助かったでしょうか。だいたいビーコンがあったってスコップがなけりゃあしょうがないでしょうに。

しかも場所はスキー場です。気がゆるむのも、正直、判りますよ。私だって、雪山からおりて、スキー場についたら、もう安全圏内だ~。と思っちゃいますもの。

じゃあ誰が悪いのか。

ヤマでの事故は、そのときそのやまにいたひとにしか、判らない。と私は思います。
遺族が嘆かれるのはともかく、そのときそのやまにいなかったヤマヤが、安全圏から、遭難死したヤマヤにあれこれいうのは、これは法的にではなくて、倫理的に、どうかと思うんです。ちょっとでもヤマをかじったことのある人間が、安全圏から、死んだ人を非難するなんて、それは人間としてヤマヤとしてどうなんだよ。

那須の事故から、もうすぐ二年です。この冬も多くのヤマヤが亡くなりましたし、これからGWにかけて、残念ながら、山岳事故は増えるでしょう。

しかし私は、死んだヤマヤを非難するガイドは信用しません。
死んだヤマヤは精一杯自分のヤマと向き合って死んでいったのです。そのことに敬意を表し、冥福を祈ること。そして安全登山を心掛けて、登り続けること。それ以外にできることなど何もないと思います。我々、生き残ったヤマヤには。









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