2019年02月08日

葉隠に見る弁護士の心構えその2 反対尋問で異議を出すときは「切り殺されるるまでなり」

またまた「葉隠」を引用しますが(好きなんで…)

「打ち返しの仕様は、踏みかけて切り殺さるる迄なり。これにて恥にならざるなり。しおほす(仕果す)べきと思ふ故、間に合わず。向かふ(敵)は大勢などと言ひて時を移し、しまり止めになるる相談に極まるなり。相手何千人もあれ、片端よりなで斬りと思ひ定めて、立ち向かふ迄にて成就なり」

これは、「やり返すときは、切り殺されるまでやる、と決めて徹底的にやれ。「完璧にうまくやらなくては」などと考えていると、時機を逸する。相手は大勢だからなあ、どうしようか…などと考えているうちに、時機を逸し「やっぱりやめましょう」などということになるのである。相手が何千人いようが、びびることなく、片っ端からやっつけてやると覚悟を決めて立ち向かうまでだ」

という意味です(大体…)。

これ、尋問で、異議を出すときは、まったくこのとおりです。

異議を出すときは、つまり、自分のお客さんが、敵側の代理人に尋問され、問い詰められて、困っているときです。

こういうときには、相手に何と言われようと、ともかく敵側の尋問を止めてやる。何が何でも。
と思ってすぱっと出さなくてはいけません。「これ、異議事由何にあたるかなあ。こんな異議だして、反論されないかなあ。裁判官は認めてくれるかなあ…」などと考えたり、「相手はベテランの弁護士だから、異議に反論してくるかも…」などと考えていては、いけません。相手がベテランだろうが何だろうが、ともかく異議を出して、相手の尋問を止める。

これによって、敵側から問い詰められて窮しているお客様は、一時的にでも、ほっとします。相手代理人は尋問の調子を崩され、自分のペースを、たとえ一瞬でも逸します。これによって、尋問のペースが相手にもっていかれることを防ぐのです。

異議を出すことには「困っているお客さんを助ける」「相手に問い詰められても、焦らないで。ちゃんと、私が守ってあげますよ、というメッセージをお客さんに送る」という意味の他に、「相手代理人の尋問時間を削り、それによって、有効な反対尋問をされる可能性を少しでも減らす」という、意味もあります。

なので、私は、異議を出すときに、「異議!」などとは言いません。大声で、まず、「異議がございます」と言います。これでまず相手代理人の尋問を止める。その上で、ゆっくり立ち上がって(この間に異議事由を頭の中で整理する!)、「今の原告代理人の質問は、○○に該当します。撤回を求めます」と、さらにゆっくり言います。

これで10秒は、相手代理人の、反対尋問時間を削ることができます。相手が、異議に反論してきたら、さらに、しめしめ、この議論で5分くらいは相手代理人の手持ち時間を削っちゃろ。ということで、さらにさらにゆっくり丁寧に反論します。

尋問は、弁護士の仕事の中で、もっとも明確に、弁護士の腕、が判るところです。腕の見せ所です。異議を出さないのはもったいない。

私は、若いころ師匠に「鉄は熱いうちに打て。異議は若いうちに打て。」と言われました。これは、若手弁護士の頃は、ちょっと変な(的外れの)異議を出したところで、裁判所も笑って見逃してくれる。年をとってベテランになってから、変な異議を出したら、恥ずかしい。だから、若いうちにバンバン異議を出して、異議を出す方法に習熟せよ。という、お教えでした。

私はそのお言葉を実行して、若いときは本当に異議を出しまくりました。まさしく、「片端より撫で切りと思ひ定めて」立ち向かったものです。そのおかげか、いまは、異議を認められない、ということはほぼないです。

でも、ま、異議が通らなくてもいいんです、ほんとうは。要は、相手のペースを乱し、お客さんを助けられたら、異議が通らなくてもいいんです。まさしく「切り殺さるる迄なり」という感じですね。





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